ヤッタネ!通信6号  

2001年12月25日発行

ヤクタネゴヨウマツ調査隊事務局手塚 賢至
〒891-4203 鹿児島県熊毛郡上屋久町一湊白川山 TEL&FAX0997-44-2965

∽∽∽∽∽∽∽ヤクタネゴヨウ調査隊結成2周年によせて∽∽∽∽∽∽∽

森林総合研究所 生態遺伝研究室 金谷 整一(かねたに せいいち)

 2年の歳月とは早いものです。
 ついこの前、全労済の助成を受けてヤクタネゴヨウ調査隊を結成したばかりだと思っていましたが、その助成期間がとうとう終了してしまいました。しかしながら、この2年間は私の人生・研究者活動にとって大きな前進であり、大変貴重な時間でもありました。調査隊員の方々にとっても調査が大変であった事など記念すべき(?)経験をされたことでしょう。
 さて2年間の調査活動で得られたデータは、学術的に非常に貴重であり他に類を見ないものとして、多くの研究者から評価されています。ただし、どこにどれくらいの大きさのヤクタネゴヨウがあるかという情報だけでは、「ヤクタネゴヨウの保全」という最終目標を達成するには不十分です。そこで、私が所属する研究室では調査隊のデータを基に、以下に示しました研究を計画しています。
 1. 葉っぱ(針葉)から取った遺伝子(DNA)を分析し、(1)遺伝的多様性の評価、(2)繁殖様式(花粉の流れ:親子兄弟)の解明(種生物学会編「森の分子生態学」文一総合出版を参照)。
 2. モニタリング調査(毎年決まった時期に継続して行う)によって、(1)着花量、(2)着果量(球果:マツボックリ)と種子生産、(3)枯死状況と枯死要因の解明。
 3. 分布環境・更新状況を調査し、自生地(現地)での生残の可能性の検討。
 以上の結果については、研究成果が発表され次第、お知らせいたします。また、これら以外でも、最近懸念されている大気汚染物質がヤクタネゴヨウにどのように影響するかということについて、九州大学演習林の久米さんが研究を進めています。これらの調査結果がまとめられると、ヤクタネゴヨウの保全に向けた提言が出来ると確信しています。
 2年間の調査隊の活動は毎月の調査だけではなく、「ヤッタネ!通信」の発行、「スライド講演会」への参加(平成12年11月:屋久町尾之間)、調査隊主催の講演会(平成13年2月:上屋久町宮之浦)、日本生態学会でのポスター発表(平成13年3月:熊本県立大学)と活動で得られた成果を常に外へ発信してきました。その甲斐あってか、屋久島森林環境保全センターの「ヤクタネゴヨウ苗木移植」(平成13年3月)への協力依頼、九州森林管理局の「ヤクタネゴヨウの保護増殖緊急対策事業」(平成13年度〜)の検討委員会への参加(手塚賢至隊長)も行ってきました。これらのことは、ヤクタネゴヨウ調査隊の活動を行政サイドが評価しているものと考えられます。今後も様々な形で調査隊の活動が充実・発展していって欲しいと願っています。なお2年間の調査隊の結果は、来年4月に開催される日本林学会(新潟大学)で発表する予定です。
 私にとって調査隊は、人と人のつながりの重要さを改めて認識させられる場でもありました。お世話になった手塚さんの家族だけではなく、調査に参加してくださった島内の住民の方々、島外の観光客・公務員・研究者・大学生・大学の先生等と出会い、語り合うことが私の人生・研究にとって有意義なものとなりました。そういえば飲んかたの重要性も思い知ることができました(前の晩、飲みすぎて遅刻したことが何回かありました……申し訳ありませんでした……反省)。
 今回は非常に危険な調査にもかかわらず、調査隊に参加した方々に大きなケガもなく、活動が順調に行われたことを、素直に喜びたいと思います。今後も、ヤクタネゴヨウ調査隊の活動は新たな助成(セブンイレブンみどりの基金・緑と水の森林基金)を得て継続していきます。調査隊および調査隊員各位の益々の発展を祈念するとともに、調査隊員および関係者の皆様との再会、また新たな出会いを楽しみにしています。

平成13年9月3日(山尾三省さんの初七日)
大雨のため調査が出来ずに手塚さん宅にて記す


ヤッタネ!調査隊活動報告

 ヤッタネ通信5号発行がなんと!2000年12月12日でありました!ので1年振りの通信発行になります。この1年間通信は出せませんでしたが、調査、講演会、その他、活動は順調に、活発に進んでいますので、ここにまとめて報告します。

00-12-12   ヤッタネ!通信5号発行
12-17   定例調査(21回)西部D尾根
01-01-02   予備調査(22回)瀬切左岸
01-21   定例調査(23回)西部D尾根
02-17   ヤクタネゴヨウ講演会(屋久島環境文化村センター)
02-18   定例調査(24回)西部C尾根(ヤクタネゴヨウ講演会の付随行事「調査に行こう」)
03-04   ヤクタネゴヨウ苗木の植樹ボランティア(森林環境保全センター事業に参加)
03-18   定例調査(25回)西部T尾根
03-27   第48回日本生態学会自由集会(詳しくは次ページをご覧ください)
03-28       〃      ポスター発表(    〃      )
04-15   定例調査(26回)西部T尾根
05-29   定例調査(27回)西部T尾根
06-17   定例調査(28回)西部T尾根
07-15   定例調査(29回)西部T尾根
    (8月の定例調査は台風のため中止)
09-16   定例調査(30回)破沙岳
10-05   「ヤクタネゴヨウ増殖・復元緊急対策事業検討委員会」(九州森林管理局・熊本市)委員として手塚賢至参加(詳しくは次号でお伝えします)
10-21   定例調査(31回)西部T尾根
11-07   スライド講演会(高平公民館)「ヤッタネ!調査隊活動報告」屋久島研究自然教育グループと共催
11-19   “はなのき友の会”(長野県飯田市)と交流。ハナノキは長野県・岐阜県・愛知県に自生するカエデ科の木で、ヤクタネゴヨウと同じくレッドデータブックの絶滅危惧種(1B類)“はなのき友の会”は代表の北沢あさ子さんが中心となって保護に取り組むNGO(詳しくは次号にて)
12-09   定例調査(32回)西部T尾根

生木413本を記録しました。2年間の成果です。ヤッタネ!


第48回 日本生態学会
2001年3月26日〜3月31日
会場 熊本県立大学(熊本市)

∽∽∽∽∽∽∽ヤッタネ!調査隊学会初デビューのてんまつ∽∽∽∽∽∽∽

手塚 賢至

 世に学会なるものが存在している事は知ってはおりましたが、研究者でもない私がそのような場で発表するなどとは、人生わからないものです。3月27日の自由集会と28日のポスター発表を行いました。私はことさら学問などを探求した事もないので、学会と聞いて一瞬身を引いたものの、根っからの物好きには違いなく、それにヤクタネゴヨウのためなら今や学会だろうが国会だろうがなんでもやっちゃるとの鼻息で見境が無いのです。とはいえ、門外漢の身、そこそこ大人でもありますから、まあせめて生態学者が集う場の雰囲気だけでも嗅いで来ようと、静々と出かけたわけです。
 所は熊本県立大学、前身は女子大のこじんまりとした清楚なキャンパスです。しかし会場は大変な熱気。若者が多くて活気に満ちています。夏のフィールドワーク講座(上屋久町主催)に参加した学生、院生にも何人か声をかけられました。生態学とひと言で言っても分野が多岐に渡り、例えば27日の口頭発表は24分野の24会場に分れて、13:30から17:30まで15分毎に行われ、28日も同じくですから、それはおびただしい数の発表が行われます。27日の自由集会は17:30から8会場に設定され、皆さん自分の目当ての気になるセッションの会場に入場していきます。自由集会は企画者が立案したテーマの呼びかけに応じた関連の研究者による集会の場です。
 さて、私の参加した自由集会のテーマ、企画者、演題、発表者、そして主旨(抜粋)は以下のとおりです。
*テーマ* 「絶滅危惧種ヤクタネゴヨウは今──屋久島における現況──」
*企画者* 金谷 整一(森林総合研究所) 小林 剛(森林衰退研究センター)
*演題*
 1ヤクタネゴヨウについて 金谷 整一(前出)
 2ヤクタネゴヨウとマツノ材線虫病 中村 克典・秋庭 満輝(森林総合研究所・九州)
 3屋久島の水・大気環境 永淵 修(福岡県保健環境部)
 4ヤクタネゴヨウの生理生態的特性 久米 篤(九州大・演習林)
 5「ヤクタネゴヨウ調査隊」活動報告 手塚 賢至(鹿児島県上屋久町・ヤクタネゴヨウ調査隊)
──近年、絶滅の危険性の高いヤクタネゴヨウを保全していこうという気運が高まりつつある。ヤクタネゴヨウの保全条件の確立には、現存する生残個体の分布場所と個体数ならびに衰退過程と衰退要因についての知見の集積が必要不可欠である。本集会では、最近行われているヤクタネゴヨウの衰退に関する研究内容を報告するとともに、生残個体の分布位置図の作成を目的として地元の有志者によって結成されたNGO組織「ヤクタネゴヨウ調査隊」の活動について紹介する。──私はヤッタネ!調査隊の活動をスライドを映しながら説明しました。しかし不覚なことに、私の出番は最後で会場は暗い。次第に眠くなってくる。なにしろ前夜あたふたとスライド選定に熱中するうちに眠れなくなって、肝心の本番時には発表しながら睡魔とのたたかいとなり、意気込みの割には精彩を欠いた発表に終始してしまいました。
 28日のポスター発表は体育館が会場です。
だだっ広い空間に衝立が張り巡らされていて、各自に均等にスペースが割り当ててあり、そこに各自が研究成果を示したポスターを貼っての発表です。私達は「保全・景観生態」のセクションで、ここに金谷整一(森林総研)・手塚賢至(ヤクタネゴヨウ調査隊)の連名で「屋久島西部林道沿いにおける絶滅危惧種ヤクタネゴヨウの分布」と題したポスター《末尾に調査参加者の名前が全員ズラリと刷ってある》(金谷整一作製)や、ヤッタネ!通信、写真等も展示、配布しました。ようするに研究成果の見本市ですね。ポスターの前で客待ちしたり、客を呼び込んだりします。熱心に関心を持ってくれる人、素通りの人、様々です。この迷路のような空間の中に、多様なテーマとアプローチをめぐるすごいエネルギーの渦が充満しているようでした。
 貴重な体験をさせてもらいました。まだ実績そのものが定かでなく、一見、学会などとは縁の無さそうな私達の活動が、保全生態とか生物保全といった生態学の潮流の中に少しでも連なっているものだという実感を得られ、これからの活動の励みになります。確信を持って調査に取り組んでいけばいいのです。自由集会での様々な分野からの研究発表が、全体的、総合的な視野を持つことの大切さを教えてくれます。私達の活動の立つべき位置というものが見えたように思います。地元にあってこうした研究の扇の要の役を少しでも担えればと思います。それがおのずと屋久島における自然環境保全の道筋を考える一助になることだと思います。


風媒花伝
お知らせ・情報・風のたより

 全労済へ2年目の活動報告書提出(報告書ご希望の方は事務局まで連絡ください。お送りします。)これをもって2年間の全労済環境問題活動助成は終了しました。
 現在、2つの助成機関より助成を受けています。
 セブンイレブン緑の基金(これは、物品支給です。パソコンとデジカメが入りました。)
 緑と水の森林基金(2001年9月〜2002年8月 年額50万円)
 2002年1月末〜2月初旬 10日間程度 林木育種協会が行う接木用の穂木採取の案内・補助役として調査隊より参加します。これは林野庁「ヤクタネゴヨウ増殖・復元事業」の一環で、この事業の根幹となる作業です。詳しくは次号で報告します。
 2002年1月20日(日) 定例調査 定例調査は原則として第3日曜日です。
 2002年2月17日(日) 定例調査 ご希望の方は事務局まで連絡ください。

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《編集後悔記》

 前号発行からはや1年が過ぎた。通信が1年に1回とはお恥ずかしい限りだ。なんともいかん大後悔だ。通信が届かないのでもう活動停止したのではないかと問い合わせもあったりする。いや、しかし、2ページをご覧ください。きちんと調査は続行中。すでに2001年8月をもって3年目に入っている。本当に反省しておりまして、2002年には必ず、少なくとも年4回の発行を肝に銘じております。
 弁明とお願い
 今回唐突ながら振り替え用紙を同封しました。活動のための自己資金の確保は、ある程度必要であると感じています。通信を作り郵送するのにも費用がかかり、限られた助成金だけに頼ってばかりでは通信作りにも及び腰になってしまいます。1年間の会費(活動支援)として、金額1000円としました。支援いただいた方は会員として登録させていただき、年4回の通信をお届けします。よろしければ御協力いただければ幸いです。しかし振込みにそれ程こだわる訳でもありません。いずれにしろ私達はこの通信をこれまで縁のあった方々にお届けします。読んでいただけるだけでも充分満足なのであります。──手塚 賢至──



ウェブマスターより
 このページは「ヤッタネ!通信6号(A3サイズ印刷物)」をもとに編集したものです。写真、図、イラスト等は割愛させていただきました。印刷物の入手につきましてはメール等にてお問い合わせください。

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