ヤッタネ!通信2号  

2000年1月1日発行

ヤクタネゴヨウマツ調査隊事務局 手塚 賢至
〒891-4203 鹿児島県熊毛郡上屋久町一湊白川山 TEL&FAX0997-44-2965

∽∽∽∽∽∽∽∽ヤッタネ!(屋久島ヤクタネゴヨウ)調査隊が活動開始∽∽∽∽∽∽∽∽

北薩森林管理署次長 井手 征男

 屋久島と種子島だけに分布し、日本版レッドデータブックにも絶滅危惧種として指定されているヤクタネゴヨウを救おうと、環境NGO(手塚賢至を代表とする民間団体)は、一年間かけて保護・保全活動の基礎資料となる分布の現地調査を9月26日から開始した。
 ヤクタネゴヨウは、台湾から中国本土に生育するタネゴヨウの近種である。タカネゴヨウに比べて、球果が小さく広楕円状で種子も小さい、葉が短く硬い等の特徴を有する。ヤクタネゴヨウは、進化が進んでいない古い時代からの植物であるため、新しい他の樹種に比べて生存への競争力は弱い。その結果、古くは日本列島の関東以西に広く分布していたものが、現在は屋久島・種子島のみに生育するようになったとされている。
 藩政時代、ヤクタネゴヨウは種子島において藩の財産として大切に保護されていたが、明治以降、沿岸の漁業や交通のための丸木船の材料として利用され始め、大正時代には約500隻分の伐採がなされたようである。戦後、建築用材として伐採されたことに加えて、20年ほど前からはマツクイムシの被害等により個体数が急速に減少している。このため日本版レッドデータブックの絶滅危惧種に指定されている。
 現在、ヤクタネゴヨウのほとんどは屋久島に生育している。屋久島の固体は、国割岳から瀬切川にかけての世界遺産登録地域内・森林生態系保護地域内、平内集落の後方の芋塚岳南西斜面、麦生集落後方の高平岳頂上付近の三つの天然林に別れて生育しており、その推定個体数は1000〜1500本である。
 これらのヤクタネゴヨウのほとんどは孤立状態で近親交配・自家交配が多く種子の念性低下のほか、光発芽植物であるため林間が閉鎖した林分での自然状態の更新は困難である。
 このような状況では、ヤクタネゴヨウの絶滅はほぼ確実であり、レッドデータブックに記載されている裸子植物の危惧種4種の一つであること、世界遺産登録地域に生育している植物であること等の重要性から考えて、種の永続的な保全のためには、法的保護の確率は基より人為的な保護・管理が緊急に必要である。
 以上のようなことから、ヤッタネ調査隊が実施する全固体の正確な位置の特定、直径・樹高・樹勢等の調査は、今後のヤクタネゴヨウ保護・保全事業を行う上で貴重な基礎資料となり、全ての試験・研究者は基より関係機関が、最も注目している大切な調査である。ヤッタネ調査隊員の皆さんのご健闘を祈ります。

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 井手さんは昨年11月まで、屋久島森林環境保全センター所長職にあって当初よりヤッタネ!調査隊には毎回参加され、常に船頭役をつとめていただきました。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽法的保護の現状∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 屋久島の国割岳から瀬切川にかけての集団は、国立公園(特保・一特)世界遺産登録地域・森林生態系保護地域にしている。また、屋久島の平内・高平集団は薪炭共用林・水土保全林・険阻地に区分されている。種子島の集団の一部は植物群落保護林に指定されている。しかし、民有地に単木的に生育している種子島・鹿児島本土のヤクタネゴヨウは、特段の保護がないため伐採される可能性がある。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽想定または実施されている保護・増殖事業∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

  • 全固体の正確な位置の特定、直径・樹高・樹勢等の調査──ヤッタネ調査隊
  • 各固体の近親度・遠縁度・交配様式の調査──森林総合研究所
  • 固体減少原因の解明(遺伝的問題・マツクイムシ等)──林木育種センター外
  • 増殖技術の確率(接木・着果促進・実生苗)──林木育種センター九州育種場
  • 回避措置(現地内保存・現地外保存)
  • 現地更新の環境改善(光条件改善・掻き起こし等)

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽3回のヤッタネ調査を終えて……∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

九州大学農学部 金谷 整一

 「ヤクタネゴヨウ調査隊(通称:ヤッタネ!調査隊)」が活動を開始して、もう既に3ヶ月が過ぎました。これまでに、屋久島内外の方々のべ40人ほどが調査に参加され、これまでに2尾根ほどのヤクタネゴヨウ生存木の調査が終了しました。
 これまでの調査結果をまとめて生存木の分布位置図を作成してみると、鳥肌が立つような思いになりました。何故かと言うと、絶滅危惧種を取り扱った研究は最近増えてきていますが、ヤッタネ調査隊の活動は「生存木の正確な情報(固体サイズ・位置図)を作成しよう」という経済的時間的労力的に非常に困難なテーマに対し正面から挑んで、誰も得たことがない結果を保有しており、また調査を継続することにより、その重要性が並大抵なものでないと確信したからです。
 ヤクタネゴヨウ生存木の調査は、分布地が非常に急峻であり、身の危険と引き換えに行うようなものですが、幸いにこれまでに大きな怪我をされた隊員はおらず、調査は順調に滑り出したと思います。
 今後、調査に馴れたことによる気の緩みなどで、思いもかけない事故などが起こることも十分予想されますので、隊員の皆様のおかれましては、調査には十分気を引き締めて参加されるようお願い申し上げます。

 さて、ヤッタネ調査隊の最初の2回は、隊員の皆様が調査になれていただくように1斑のみで活動していましたが、11月21日(日)に行われた3回目の調査は、初めて調査隊を2班に分けてみることを試みました。この理由として、@手塚隊長がコンパス測量を習熟したこと、A調査に参加される皆様が調査内容を理解し、自分に与えられた仕事をきちんとこなせるようになったこと、B1班より2班の方が多くの尾根を調査できデータを効率的に得られること、が挙げられます。さらに、この時の調査では、鹿児島大学農学部4年生の下野君、榊原さん、知本さんの3人がボランティアで調査隊に参加してもらったことも影響しています。
 現在、彼らは生物生産学科の育林学ならびに森林保護学研究室(旧林学科系)に所属しており、森林に関連するテーマの研究を進め、卒業論文の作成に日夜勤しんでいます。また、彼らは「測量学」の講義と実習を受けていることから、卒業と同時に「測量士補」の免許を所得できる資格を有していて、調査隊にとっては非常に強力な「助っ人」となりました。
 これまで屋久島に来たことがない森林の研究に携わっている彼らにとって、いきなりヤッタネ調査隊に参加し、早々に世界自然遺産地域内に足を踏み入れたことは、非常に感慨深いものになったことを信じています。今回の「ヤッタネ通信」には、彼らから調査隊に参加したことに対する感想の言葉を寄せていただくことができましたので、以下に紹介いたします。

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下野 佳孝(しもの よしたか)

 今回、ヤッタネ調査隊に参加させていただいて、まず感じたことは調査隊のみなさんのエネルギーでした。どこの地域にも保護の必要性をほのめかされる動植物はいるけれども、普通はそれを一つの知識として持っているだけで、自分たちの手でその実態を調査しようとは思わないだろうと思います。しかしながら、それを実際に行っているみなさんは、生き生きとしていたし心の豊かさを感じました。自分もこれからいろいろな経験をしていくと思いますけれども、時間に追われるばかりではなく、皆様のように心豊かに生きていけたらいいなと思っています。今回初めて屋久島を訪れてみなさんのような人々と出会え、活動に参加できたことは本当に光栄で、一般的な観光よりも意味深いものになりました。
 最後になりましたが、今回一晩泊めていただいた手塚さん一家のみなさんには、本当にお世話になりありがとうございました。

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榊原 あおい(さかきばら あおい)

 ヤッタネ調査隊に参加したのは、「ヤクタネゴヨウが自然状態でどのようになっているか見てみたかった」、そんな単純な気持ちからでした。鹿児島大学構内にも、ヤクタネゴヨウが植栽されていますが、サイズは小さく、屋久島のヤクタネゴヨウとはまったく違っていました。初めて自然のヤクタネゴヨウを見たときは、「これがマツなのか!」というほど、胸高直径、樹高が大きく、通直で大変驚きました。こんなに大きいマツがあるということをうれしく思い、この絶滅寸前のヤクタネゴヨウをみんなで守らなくてはと思いました。
 また、この調査で手塚さんをはじめとする調査隊のみなさんのヤクタネゴヨウの保護意識に感動しました。そして、この調査に参加したことは大変いい経験となりました。ありがとうございました。

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知本 亮子(ちもと りょうこ)

 11月21日に行われた調査に初めて参加しました。そのときの感想は?と聞かれると「つらかったです。」の一言に尽きると思います。調査地は驚くほどの急斜で、上がる時にも降りる時にも何も考えられないほど必死になり、岩は斜面を転がりそうになるので気を使いながら歩き……。ですが、つらいことばかりではありませんでした。ヤクタネゴヨウの実生をみたときにはとても感激しました。絶滅危惧種であるヤクタネゴヨウが一生懸命生きようとしている姿を自分の目で見ることができたからです。初めて屋久島にいった私にとってこの調査は貴重な体験になり、心に残る思い出になりました。本当にありがとうございました。あの実生たちが大きく成長しますように。

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 今後も「新しい力」と「若い力」が調査隊に関って、これまでにない貴重な体験をするとともに、調査隊としては他に類をみない結果を蓄積していければ、この「ヤッタネ調査隊」の活動は非常に有意義なものになっていくと確信しています。
 これからの調査が素晴しい発展を成し遂げるとともに、調査時における隊員の皆様の無事を心から祈念いたしております。


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽3回の調査で46本の生木を確認しました!∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽実生調査をしました∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

岩のわれめ
から
ぼうしをかぶって
こんにちは

 11月の調査は2班に別れましたが、その内の1班で、3本の生木の周辺に今しも大地から芽を出したばかりの実生を30本程見付けました。それまで見過ごしていたのでしょうが、ひとりが見付け、改めて目をこらして見始めるとここにもある、あそこにもと急に目に飛び込んできます。
 自然を見るということは見る側の意識の問題なのだと実感しました。物事は見ようとしなければ何も見えてはこないのです。
 金谷さんと相談して、この実生がこれからどのように育っていくのか、または枯れていくのか引き続き調査を進めることに決めて、12月14日、6名でその地におもむき、約30m四方面積内の実生の位置を実測し(地図化する)ナンバーを付けました。そしてこの日又10本新しく見付け、この区域内に現在40本の実生を確認してあります。
 同時に太陽の光がどのように林床に射すのかを知るために、魚眼レンズを使い林冠の状態の写真撮影も行いました。この日は、広島大学森林衰退研究センターの久光篤さんも参加され、意見交換ができました。この実生が育つか否かは主に光環境に左右されそうですが、根の環境も大きく作用しているようですし、酸性雨等、水の質、そして鹿による食害等々、様々な分野からの知見も必要とされてくるでしょう。これからもこの実生群の推移は慎重に見守っていきたいと思います。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽うれしいニュース!∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 12月の調査で尾根近くの岩場に数本の幼樹を発見!12/28に再確認をして樹高20cm〜2mくらいの幼樹約35本を確認しました。くわしくは次号に!


風媒花伝
お知らせ・情報・風のたより

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ヤッタネ!調査隊種子島へ渡ろう∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 2000年年頭1月の調査は種子島へ出張調査します。ヤクタネゴヨウの種子島での樹々がどのように生育しているか、その現状を屋久島と照らし合わせて、私達は身近に知っておくことが大切です。私達の活動は常にこの二つの島をしっかりと視野に入れて、将来的な方向性を定めていきたいと考えています。幸い西之表市には我が隊の強力なメンバー長野広美さんがおられる。金谷整一さんは永年種子島でも調査を続け精通している。一昨年11月には熊毛研究・自然教育グループの一員として、「種子島を語る会」の主催でスライド講演を行った御縁もある。ヨシッ、ヤロウとこの金谷・手塚プランを長野さんに伝えるとすぐさま種子島での段取りを進めて、「種子島を語る会(代表・井元正流)」・「種子島自然調査会(代表・伊藤義松)」そして「ヤッタネ!調査隊」の三者共催というテキパキ、テッカクな催しに発展させていただきました。ありがとう!種子島の皆さんとの交流の輪が広がり、実り多き種子島行となりますように。

1月15日(土)
  8:30 宮之浦港集合
  9:00 フェリー太陽で出港
 10:05 南種子島間港着
  ↑  中種子町・西之表市分布調査
  ↓  中種子町歴史民族資料館見学(丸木舟)
 14:00 スライド講演会
     (西之表市・鉄砲館会議室)
     ★金谷整一「絶滅の危機にあるヤクタネゴヨウについて」
     ★手塚賢至「ヤッタネ!調査隊の活動報告」
 
1月16日 (日)   
  9:00
  ↑  西之表市安城・古田地区
  │  (中割国有林内)
  ↓  分布調査と観察会
 12:00
 14:45 島間港より出港
 15:30 宮之浦港着・解散

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽これからの調査日案内∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 1月30日(日)には屋久島調査を行います。2月20日(日)は定例調査です。

編集後悔記、又

 今号又しても発行が遅れてしまって後悔記を記す。もちろん好きで後悔ばかりしているわけではありません。言い訳をひとつ。年末にコピー機が故障してしまいまして、修理頼まんとすれども会社は休み。年越してやっと再起動してこうして遅ればせながらお届けすることができるようになりました。早くから原稿を寄せていただいていた井出さん、金谷さん、下野さん、榊原さん、知本さん、ゴメンナサイ。次号は、12月の調査報告と1月の種子島行を中心に2月中旬に発行予定としておきます。2000年の幕が開きました。ヤクタネゴヨウはどのような時を刻んでいくのでしょうか。そして私たちの前にはどのような年が展開されていくのでしょうか。とにもかくにも健やかであることを願ってやみません。今年もどうぞよろしくお導き下さい。<手塚>

ヤッタネ!調査隊は「全労済」環境問題活動助成を受けています。



ウェブマスターより
 このページは「ヤッタネ!通信2号(A3サイズ印刷物)」をもとに編集したものです。写真、図、イラスト等は割愛させていただきました。印刷物の入手につきましてはメール等にてお問い合わせください。

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