エコツアーに救助犬を同行する理由

 エコツアーとは、自然の営みや人と自然の関わりを楽しむとともに、その対象となる自然環境や文化の保全に責任をもつ観光のあり方である「エコツーリズム」を具体化したツアーの形態です。

 エコツアーでは地域の自然や文化に対して敬意をはらい負担をかけないことが大切ですが、同時にツアーを安全に楽しんでいただくことも重要な課題です。その一環として私たちは山岳救助犬の育成をしており、訓練と安全向上のためにエコツアーに救助犬を同行させていただいております。訓練は毎日の積み重ねが大切です。第一に、実地での捜索を可能にするために、遭難が起るあらゆる場面を想定して訓練を積んでいく必要があります。第二に、なるべく多くの人に接して友好性を養うことが必要です。この二つの目的に沿うためには、いろいろな登山コース、川、海等での訓練、また人の多い場所に連れて行っての訓練が欠かせません。更に救助犬の訓練においては、犬と共にハンドラー(犬を操る人)の訓練が非常に重要です。特に山岳捜索においては体力と共に高度な技術を要することもあり、日頃から鍛錬しておく必要があります。また国立公園内(特別保護地区を含む)や世界自然遺産登録地域内等で遭難事故が起きることも少なくありません。

 屋久島では島の約4割の地域が国立公園に指定され、また約2割の地域が世界自然遺産に登録され、その中には西部林道周辺、縄文杉登山コース、宮之浦岳登山コース、黒味岳登山コース、愛子岳登山コース、太忠岳登山コース、モッチョム岳登山コース等の大部分が含まれます。屋久島における山岳捜索という特殊な作業に従事する救助犬としては、国立公園内(特別保護地区を含む)や世界自然遺産登録地域内等でも訓練をするということが必要不可欠となります。

 1995年1月17日の阪神大震災でスイスおよび富山から救助犬が入って捜索したことにより、新たな救助犬組織がいくつか設立され、全国での救助犬活動が活発になり始めました。しかしまだ一般の人たちには馴染みが薄く、実際にどのような活動をしているかということさえ殆ど知られていません。その中で少しでも理解を深めていくには、実際に救助犬の作業を目の当りにしてその能力を確認していただくのが一番です。そのために私たちはエコツアーにおいて、参加者に救助犬の訓練を手伝っていただいております。このことが救助犬の広報宣伝につながり、救助犬活動をしている全国のボランティアにも大きなプラスになっていることは間違いありません。

 スイスでは救助犬の資格を取得すれば、交通費、滞在費等、救助活動に関るすべての費用をスイス災害救助犬協会が補償してくれます。スイスからは阪神大震災、アメリカでの国際テロ事件、イランの震災等、多くの災害現場に救助犬を送り出していますが、その経費は全て同協会が負担しています。それに対して日本では殆どの経費を個人で負担しなければなりません。そのため、日本で救助犬に取り組んでいる人たちの多くは、時間的、経済的に余裕のある人たちが多いのが現状です。ちなみに屋久島救助犬協会では、年間50万円ほどの経費を個人で負担しています。経済的には余裕があるとは言えない私たちですが、「エコツアーの中で救助犬の訓練をする」という特殊な方法を採用することにより、時間的には十分犬の訓練に費やすことが可能となりました。ごく一部には、救助犬を商売に利用していると見る向きもあるようですが、このような理由ですのでご理解をいただきたいと思います。

屋久島救助犬協会
代表(トレーナー・ハンドラー):木下 大然

屋久島救助犬協会K-9サーチ&レスキューチーム   Earthly Company(屋久島エコツアーガイド)