南日本新聞 2016年(平成28年)8月8日 月曜日 6面
脱原発の地域モデルを
新知事に期待と不安

鹿児島共同配車センター事業協同組合専務理事
阿久根 勝利
あくね かつとし氏 1938年鹿児島市生まれ。中央大卒。県農協中央会、同経済連、県トラック協会を経て、08年から現職。この問、県立農業大学校非常勤講師、甲南高校PTA会長など歴任。

 福島原発事故のあと、全国に先駆けて、川内原発1、2号機の再稼働に同意したのが伊藤祐一郎氏であり、告示前の記者会見でも運転開始後30年を過ぎた両機の60年運転の必要性を示唆するなど、県民の声を無視し続けた。3・11後の原発の新規制基準では、地震で機能を喪失した緊急時対策所の設置を義務付けている。九州電力は川内原発の審査に対し、今年3月までに「免震棟」を完成させると約束して原子力規制委員会に通り、再稼働したが、免震棟の建設を昨年末に撤回している。
 熊本地震は県民に地震の脅威が身近にある現実を改めて認識させた。九州電力に対する県民の不信が、脱原発を掲げる新知事を誕生させたのである。
 地震活動期を迎えた日本にとって、原発はあまりにもリスクが大きい。原発は安全で安く、クリーンな発電であるという「神話」は、国際的には1970年代半ばに破綻している。しかし、日本では「原発プロパガンダ」により安全神話と豊かな生活を国民に刷り込み続けてきた。福島事故の収束もできないのに、原発再稼働を目指して神話が復活しつつある中での熊本地震は天の啓示に思える。
 福島原発事故の環境汚染は深刻である。汚染水だけでなく放射線による健康被害、除染に伴う放射性物質汚染廃棄物、食品汚染等、拡大の一途で収束のめどはついていない。特に内部被ぱくの影響が懸念される。核廃棄物の最終処分場も見つかっていない。それでも政府は御用学者に「安心神話」を振りまかせ原発再稼働を画策している。原発プロパガンダや安心プロパガンダに費やされる巨額の宣伝工作費はすべて、国民が負担する電気料金であり、税金である。
 原発を中心とした国のエネルギー政策の行き詰まりは明らかである。これまで日本ではエネルギー政策は国の専権事項であり、自治体が独自の目標や政策を持つことはなかった。しかし、環境という価値を基本にすると、21世紀の経済はその基盤となるエネルギーと食料を基軸にして地域分散ネットワーク型に変わっていく必要がある。それは地域の新たな雇用を作り出すことにも通じる。地方は太陽光、風力、地熱だけでなく、小水力やバイオマスなどの再生可能エネルギーによって、エネルギーの地産地消を図る。このような取り組みは、ドイツやデンマーク等ヨーロッパで多くの事例がある。
 ヨーロッパでは地方自治体が先行し、それを州さらに国が取り入れ他国にも波及するというケースが少なくない。日本の自治体でも持続可能な地域社会モデルを構想する北海道下川町の取り組みなどいくつかの事例が知られている。
 人口増と右肩上がりの経済成長を前提にした経済成長モデルは成り立たなくなっている。しかし、政府はいまだに成長神話を振りかざし、原発再稼働、環太平洋連携協定(TPP)と特定の大企業を利するだけの政策を推進している。これでは格差が広がり、地方は衰退するだけである。
 三反園氏は「ドイツを参考に、鹿児島を自然エネルギー県に変身させ、雇用を生み出す」と語っているから、脱原子力社会に向けての地域づくりのイメージがあると推察する。ぜひ、脱原発の地域モデルを作り鹿児島モデルとして世界に発信してほしい。
 本県の基幹産業は農業であり、農業の振興と農村の維持は脱原発の地域づくりと表裏一体。TPPは地域社会を崩壊させる恐れがあり原発以上に大きな課題である。議論を深めていただきたい。
 原発依存の発想では地域経済の刷新は難しい。三反園知事の言う“チェンジ” が必要だ。知事選で示された民意を踏まえ、新知事を支える県民一丸となった体制づくりが望まれる。

南日本新聞 2016年(平成28年)8月8日 月曜日 22面
新知事就任の波紋
川内原発再稼働1年
異例要請に九電苦慮
三反園リスク

 九州電力川内原発の運転一時停止と再点検を求める三反園訓知事一の当選から一夜明けた7月11日。九電株は一気に75円値を落とした。東京株式市場の終値919円は今年の最安値。東日本大震災による落ち込みから回復後、約3年ぶりの低い数字だった。
 新知事の一挙手一投足に注目が集まる中、九電社員はため息がちだ。「やっとのことで再稼働できたのに、また振り回されるのか。原発はもう国にやってほしいくらいだ」
 いまの九電にとっての至上命令は昨年に再稼働した川内1、2号機の運転継続。5年前の東京電力福島第1原発事故を受けた原発停止で、火力発電の燃料費などがかさみ、一転して赤字に転落。約6千億円の内部留保をはき出したからだ。
 だが、「2基で1カ月に100億円の黒字を生む」といわれる原発パワーはすさまじく、再稼働した途端に、純損益は1146億円の赤字から734億円の黒字に5年ぶりに転換(2016年3月期連結決算)した。株主配当も復活、社員には今夏、4年ぶりにボーナスが支給された。
 長いトンネルの先にようやく一筋の光明が見えた九電の経営環境だが、三反国知事は先月28日の就任記者会見で、8月中にも原発の一時停止を要請する決意を正式に表明した。
 一方、翌29日の九電会見で瓜生道明社長は「正式に申し入れがない」と繰り返し、対応を明かさなかった。ある社員は「むげにできないのは確かだが、原発を停める法的権限もない知事による異例の要請を、『はい、そうですか』とは受け入れられない。他の電力会社にも影響することだから」と社長の胸中を代弁してみせた。
 さらに三反園知事は、原発の40年を超える運転延長を認めない考えを表明。川内原発3号機の増設にも否定的見解を示した。これら「三反園リスク」は、九電が望む原発の長期運転にとって、新たな障壁となりつつある。
 九電は、川内に続き玄海原発(佐賀県)の本年度内の再稼働を目指すものの、取り巻く経営環境は厳しさを増している。電力自由化で、低料金を売りにする新電力との競争が激化しているためだ。
 一定規模以上の工場などでは、契約電力ベースで、川内原発1.2基分に相当する約109万キロワット(15年11月現在)が新電力に奪われた。4月に自由化された一般家庭向けでも6月末までに5万件の顧客を失った。
 「裁判リスク」も無視できない。関西電力高浜原発(福井県)で3月、運転差し止めを求める住民の訴えを裁判所が認め、運転が停まった。川内原発でも2件の訴訟が継続中で予断を許さない。
 川内1、2号機は10月から相次ぎ定期検査に入る予定。三反園知事が検査後の運転再開に難色を示せば、2基とも停止する可能性も捨てきれない。訴訟継続に新知事誕生と懸念材料が増える中、九電幹部は先を見透かすように冷静に語った。「もう知事は替わった。我々は新たな環境に適応していくだけだ」

写真:鹿児島県の三反園訓知事の就任翌日、記者会見で原発の必要性などを訴える九州電力の瓜生道明社長=7月29日、福岡市の九電本社



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