朝日新聞夕刊 2011年10月3日
国有地売却 開発の契機
馬毛島[1] 失われゆくもの

真っ青な海に浮かぶ馬毛島。違法開発の疑いがもたれている=9月23日、鹿児島県西之表市、本社機から、森下東樹撮影
 
 米空母艦載機発着訓練の移転候補地として浮上した鹿児島県の馬毛島。大規模な開発工事が進むこの島について、伊藤祐一郎・同県知事は9月、現地調査の意向を示した。地元の漁師らが工事差し止めの訴訟を起こした翌日のことだ。
 島の99%を所有しているタストン・エアポート社 (旧馬毛島開発)による開発は1999年1月、1通の文書から始まった。
 国有財産売払通知書。
 その5ヵ月前、同社が県を通して買受申込書を提出していた国有地約14ヘクタールが、 1340万円で売られた。
 210筆もの土地は、馬毛島の田畑や宅地、保安林の間を縦横に走っていた道路網(一部は水路が並行)、で、総延長約6キロの市道3路線を含んでいる。売払通知書に用途は「採石事業用地」と記されていた。
 通知書交付の12年前、地元の同県西之表市は、この道路網を無償に近い3405円で取得しかけた。結局、利用計画が立たないとの理由で購入を辞退した。
 道路網は、戦後の農地解放に伴い国が整備した「開拓財産」。74年に市に譲与され、80年に無人島になった後は農業利用が無くなり、国に返還されていた。
 国有地に戻った道路網は、馬毛島開発が70年代から買収してきた土地を分断し、大規模開発の歯止めになっていた。その売却は、開発を後押しした。
 一方、伐採が厳しく制限される保安林は2000年5月、県が同社の申請を受け防風林約45ヘクタールの指定を解除した。魚の繁殖を助ける魚つき保安林は残された。
 同年8月以降、同社は砕石やヘリポート設置の名目で林地開発申請と伐採届を重ね、森林伐採を進めた。結果的に、巨大飛行場を目指す開発を行政がアシストしてきた。だが、工事には許可外の開発行為という森林法違反の疑いが出ている。
 820ヘクタールの島で未買収の土地は、廃校した小中学校の校舎が立つ市有地、漁師の共有地、神社境内など計約6ヘクタール。唯一の農地が、港と学校跡、島中央の丘を結ぶ市道1号線沿いに残る。
 所有者は、東京・秋葉原で会社を経営する森勝幸さん(54)らのきょうだい。馬毛島生まれの森さんらは、島で亡くなった父の遺産である畑を手放すつもりはない。「畑には港から市道を通って行ける。自由に行けるようにしてほしい」と市に要請している。
 市道は道路法で認定されるが、同社は農地法によって得た土地の所有権を基に関係者以外の立ち入りを禁じている。(八板俊輔)

 沖縄・米軍普天間飛行場返還の日米合意から15年。周囲16キロの馬毛島では石油備蓄基地などの開発構想が浮かんでは消え、今、米軍基地化の動きに揺れる。利用計画が定まらないまま、自然や文化遺産の破壊が進む現状を報告する。

馬毛島の自然を守る会・屋久島