東京新聞(社説) 2007年5月24日
米軍再編法 カネと圧力だけでは

 米軍再編特措法が成立した。在日米軍再編への協力の度合いに応じて地方自治体に交付金を支給する。カネと圧力ばかりに頼れば、地元の反発を招くだけだ。話し合う姿勢を忘れてもらっては困る。
 基地周辺自治体に一律に交付金などを支給してきた従来の方法が変わる。日米両政府が合意した再編計画に協力する自治体だけに支給し、受け入れを拒む自治体は冷遇して圧力をかける。そうした「出来高払い」方式を採用したことが今回の法整備の特徴だ。
 しかも支給する自治体を選ぶ基準は必ずしも明確でない。政府のさじ加減一つで決められる。同じように受け入れを拒んでも、脈のあるところにはカネを与え、そうでないところは見せしめに与えないこともできる。「アメとムチ」そのものだ。
 地元自治体や住民の理解より、米政府との「約束」を優先する路線に転換したといってもいい。
 政府は特措法を先取りするかのように「ムチ」を振るい始めている。
 沖縄の米軍普天間飛行場を移設するキャンプ・シュワブ沿岸部の環境現況調査に、海上自衛隊の掃海母艦を参加させた。日米で合意した2014年までの移設を実現するには、これ以上、反対派に調査を妨害させるわけにはいかないと、異例の海自投入に踏み切った。
 しかし、これには調査に同意した仲井真弘多知事でさえ「銃剣を突きつけられているような連想をさせ、強烈な誤解を生む」と批判した。沖縄県も名護市も移設に反対しているのではない。移設計画の修正を求めている。強硬姿勢で県民感情を逆なでするのでなく、話し合って解決策を見いだすべきだ。
 米軍岩国基地への空母艦載機移転に反対する山口県岩国市では、政府が新市庁舎建設の補助金を打ち切り、市政が混乱している。住民投票の結果を受けて反対する市長に対し、市議会は容認姿勢に転じ、市の予算案を否決した。
 政府の揺さぶりで市長と市議会が分断された。地方分権を最重要課題に掲げる政権のやることか。
 特措法では、在沖縄米海兵隊のグアム移転に伴う費用を国際協力銀行が融資・出資できる仕組みも定められた。しかし総額3兆円規模とされる再編経費や、グアム移転費用の積算根拠は依然不透明である。
 厳しい財政状況を反映し、税金の使い方に向けられる国民の視線は厳しい。政府はもっと説明責任を果たすべきだ。国民や地元の理解を得ぬまま強引に進めれば、日米関係にも思わぬ影響を与えかねない。

馬毛島の自然を守る会・屋久島