西之表市議会一般質問

西之表市議会 平成13年6月13日

一般質問「馬毛島の開発について」

長野 広美

〔質問の要旨〕
● 馬毛島の開発と保全についての市の方針
● 採石事業から漁業への影響をどのように考えているのか、またその対策について。
● 土地問題について市有地の売却の可能性について

〔質問内容〕
 一般質問通告書にしたがって質問をさせていただきます。初めての質問となります。どうぞ、よろしくお願い致します。

 さて、平成12年8月9日に鹿児島県は馬毛島開発に対して、今年8月8日までという期限で採石事業を認可いたしました。この間の西之表市と馬毛島開発との関係を少し整理してみますと、

1) 認可時に県に求められて意見書を提出。その後に今回の事業認可となりました。内容は、火薬使用の海洋生物に対する影響が懸念されるので、県の指導を求める。葉山港の漁業権について漁協との協議。市道の利用に配慮してほしい。環境保全に万全策が必要であり、市と馬毛島開発との環境保全協定の締結に配慮してほしい。ソテツ(市指定の天然記念物)自生群の現状を変更する場合は教育委員会の許可が必要である。宝蔵地周辺の開発は埋蔵文化財分布調査が必要であることの指摘がなされています。

2) また、この意見書にしたがって市の立ち会いのもと公害防止協定が馬毛島開発と種子島漁協との間で4月2日に締結されています。協定書の内容は基本的に公害の予防措置に努め、汚濁等の汚染が起こる恐れがある場合に操業の縮小や一時停止をすること。また、被害に対する損害賠償の支払いまでを含む内容となっています。この協定の締結に先立ち、3月22日に採石場沖合い、横瀬付近を南北に700メートル幅で、現況調査のための水中写真撮影に同行しています。

 今年2月に、重機類が突然に搬入され、馬毛島の採石事業がいよいよ本格化していく、また馬毛島開発が種子島漁協へ水路建設についての協力が申し入れられるなどの動きもあり、漁業関係者や多くの市民は大変な不安を募らせています。そこで、これまでの経緯を踏まえて、まずは馬毛島の開発と保全について、市の基本方針を市長にお伺いします。以下の質問は質問席からさせていただきます。

市長 > 市としての馬毛島についての方針は開発と保全のバランスをとって進めたいということだ。会社側からの努力もなされていると思う。市としては汚濁防止協定の締結に立ち会っており、今後は会社と漁協が十分に話し合って進めてほしい。

 今回の採石事業について、多くの市民や漁業関係者の方々からは、「県が認可した事業なのだから仕方がないのじゃないか」という意見を良く耳にしてきました。県がさらには国が責任を持つからということではなく、真に地元に必要な事業をという、地方自立の時代にあって私たちは冷静に分析し自らの意見を持つべきではないでしょうか。

 去る6月1日に公害等調整委員会の審議がなされ、馬毛島開発は採石事業認可を求める書類に添付する地図から小川の存在を隠蔽し、さらに提出書類の中の「地形」欄には「沢水または湧水の状況」として「なし」とはっきり記載、また、「集水域」の面積についても現場には他の領域からの沢水の流入はない、と申告改ざんをして提出していたことなどが明かになりました(申請書の地図)。採石場予定の敷地内に小川が流れており、県が認可した当初の事業計画では沈殿池の位置も容積も不充分だった恐れがありました。実際には沈殿池の場所や規模を当初計画から変更し、立石社長はさらにこの小川を海に流すために迂回路を横瀬よりも北側に、一週間後に完成させる予定だと証言しました。もうすでに完成しているのではないでしょうか。 しかし、この小川では馬毛島でここだけに絶滅の危機に瀕しているメダカなどが生息していたというだけではなく、横瀬が優れたナガラメの漁場となっていることと因果関係がないとは言えないわけです。さらに、小川が迂回路で別の場所に流されることからの環境への影響も新たに懸念されます。 
 しかし、この小川の存在を、県の担当者は認可をする前に現地視察した際に樹木などで確認できなかったと証言しています。これでは、馬毛島開発側の言いなりで現地視察をしていると非難されても仕方ないのではないでしょうか。さらに、この新たな迂回路については、採石事業区域以外での私有地内でのことなので、自分には関係しないことだとまで発言しています。

 そもそも、県と馬毛島開発の所有者である立石建設とは、95年の土地取得の際に覚書が交わされています。その内容は、往還機着陸場決定の土地の売買に関する事と、青少年の教育の場としての市民による土地利用について同意されています。さらに当時の新聞報道によると、この覚書は土地の転売について、また採石や建設骨材製造以外の事業以外については県に協議する事を立石建設に義務付けているそうです。つまり、採石事業をこの時点で認可している事とも受け止められます。この内容では、立石建設にとっても、過去6年間に様々に馬毛島での採石事業開始に向けての取り組みは当然の行為であるといえます。なぜ、このような重要な覚書に、地元漁協への配慮がなされていないのでしょうか。その当時の経緯、またこの覚書についての市長の解釈について御意見を伺います。

市長 > 採石事業がすでに認可されているとは考えない。また市として覚書についてはなにも知らなかった(経緯について)。その後に話を聞いていたが、良くわからない。

 なぜ横瀬付近での採石なのでしょうか。漁協は、この6年間特にこの場所の貴重さや重要性を繰り返して馬毛島開発に訴えてきたにも関わらずに、今回の県の採石事業申請について、単に海岸から内陸へ30メートルだから万全であるとして、その根拠を示さないまま、県は認可しています。

 県との関係についてもですが、行政区域内にある馬毛島において、市当局の行政的責任は種子島の基幹産業の一つである漁業についても常に求められます。採石事業は内陸部である、沈殿池は基準の7.9倍ある、さらには雨季には採石工事を見合わせるなどの措置がとられているとしても、樹木の伐採、小川の変更、ダイナマイトの使用などから漁業への影響がないとは考えられません。さらには、現在の採石場を港にし、採石を向こう40年から50年は行ないたいという立石社長の意向はこの6年間一環して主張されてこられたことです。
 
 その馬毛島近海の漁場は種子島や熊毛区域内だけではなく、全国的にも誇れる素晴らしいものではないでしょうか。ここに、馬毛島に漁をするベテラン漁師へのインタビューアンケートの主な内容を紹介させていただきます。馬毛島に漁をする漁師たちは現在、住吉、上・下能野、塰泊、池田、洲之崎、大崎の7つの小組合に所属する243名です。その中からわずかですが、38名のベテラン漁師から話を伺いました。

 そこで、採石事業から漁業への影響をどのように考えているのか、またその対策について、担当課長へ意見を伺います。

農林水産課長 > 昨年の採石事業認可以前に意見書を県に提出し、また今年2月に汚濁防止協定を締結に立ち会っている。漁業被害については、まだよくわからない。

 漁業被害については良くわからないと課長がお答えになったように、今回の馬毛島の開発についてはよくわからないということがたくさんあるように思います。特に、この馬毛島問題は、西之表市の漁業を次の世代にどう残していけるのかという重要な問題が含まれています。先の述べましたように市は汚濁防止協定の締結を漁業保護策として推進されたわけですが、そもそも、この協定に先立ち、市、馬毛島開発、種子島漁協3者によって行なわれた海中写真撮影だけを判断基準にしていると言う点に多いに不安を覚えます。馬毛島で一番のナガラメの漁場であるとされる横瀬付近の(写真)このような写真だけを見て、例えば藻などの海藻類、魚種等の生物がどのような影響が及ぼされているのか、誰がどうして汚染状況を分析し判断できるのでしょうか。そもそも、馬毛島近海からの漁獲高といった基本情報を始めとして、馬毛島の漁業と陸地の樹木や河川との因果関係についても、まったく調査が行なわれていません。ちなみにシカの研究で著名な立澤史郎さんらは、2000年8月、馬毛島の横瀬、大平瀬付近で海洋生物について調査を行なっています。限られた日数と人材だったそうですが、例えば貝類では、2日間で89種類が確認されています。これは薩摩半島9ヶ所で1年間調査した結果が88種類だとされていますから、いかに馬毛島の生物が多様であるかということを示しています。ちなみに、魚類は同じ地域で大平瀬が63種類、横瀬で53種類が確認されています。

 馬毛島近海の漁業資源についてできるかぎりの情報を収集し、漁場としての正当な評価基準を市として持つことが重要ではないでしょうか。今現在、その情報を、また判断基準を持っておられないと言う事について、どうお考えですか。そして、馬毛島近海の漁場の実態調査を行なうために、今年8月で期限切れとなる現在の採石事業の継続審査については、認可の見送りを県に求めることを市長に提案申し上げますが、市長の御意見はいかがでしょう。

農林水産課長 > 馬毛島に限らず、そのような(地域別漁獲高等の)情報を持っていません。現在の時点で認可見送りの意見を出す事は出来ない。また、馬毛島に限らずいろいろなところからの水揚げなどで地域を特定した情報を得る事は無理があると思う。次回に意見書を求められれば、影響を最小限に食い止めるために、対応策を具体的に提出したい。

 もう一点最近大きくなっているのは土地問題です。馬毛島開発は市民に対して、また小組合の共有地などを狙って売却するように圧力をかけ、中には長い裁判問題にも発展しているケースもあります。5月29日付けで、葉山港周辺部の共有地の所有者として登記されている事からも、馬毛島開発が、他の所有者たちと共存する意思がないということを明示しています。馬毛島の小学校跡地などの所有権を含めて、市長の意向を伺います。

〔抹消請求手続きについて〕(これ以上馬毛島開発が個人に圧力をかけ土地購入をすることに歯止めを掛ける)
5月29日付で土地登記簿に記載されている内容は、持分変更
1) 塰泊住民1 2230分の406(18%)
2) 塰泊住民2 2230分の406(18%)
3) 馬毛島開発株式会社 2230分の1418(64%)5月28日売買のため

市長 > 小学校跡地の売却は今のところ考えていません。

 であれば、学校跡地までの市道の使用については市民が自由に使えると考えていいのですか。

市長 > その通り。市民が市道を使うのは全く問題ありません。

 再三に市長御自身も表明されておられるように、自然資源を大きく依存する農業、漁業、林業といった第一次産業が私達の生活を大きく支え、地元経済の要である基幹産業です。農業、漁業、林業はそれぞれにきびしい生存競争の中にあって、組織的にまた個人的なレベルで日々大変な努力をされて、産業振興に取り組まれておられます。市当局にとっても自然資源を守る事をまずは基本姿勢として持っていただきたい。

 そもそも、今私達が直面している馬毛島問題とは、馬毛島開発とその従業員、親会社である立石建設、県の意向、漁協のスタンス、漁師個人のさまざまな意向が複雑に関係して、今日に至っています。さらに市民の混乱や市民間の分裂を深刻化させないためにも、市としての幅広い情報収集と、情報開示、方針の明確化などを強く要望致したいと思います。

長野 広美

馬毛島の自然を守る会・屋久島