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繁殖による遺伝的影響の考察 | |||||||||||||||||||||||||||
繁殖の内容は、両親の血縁関係によりアウトブリーディング(異系繁殖)、ラインブリーディング(系統繁殖)、インブリーディング(近親繁殖)に分けられます。それぞれの境は人により見解の相違がありますが、当犬舎では便宜上次のように定義させていただきます。 | |||||||||||||||||||||||||||
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近交係数とは近親交配の程度を表す数値で、当犬舎では百分率で表しています。計算方法は、父から母までのライン上にある祖先の数だけ0.5を乗じ、他にもラインがあれば同様に計算し、最後に全てを足して100倍します。例えば上記表の右下の図を計算式で表すと以下のようになります。 |
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この計算式では従兄妹(従姉弟)同士の交配による近交係数を求めています。父母、祖父母は同じ経路でも、曾祖父の遺伝子と曾祖母の遺伝子に由来する2つのラインがあります。 以下の表は単純な近親交配の内容と、それによって生まれてくる子の近交係数、および人の社会で認可している国を示しています。 |
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乳牛では近交係数6.25%以下に保つことを理想としていますが、それは血が濃くなると乳の出が悪くなるためで、肉牛の場合は更に血が濃くても交配させますし、競走馬では近交係数25%(兄弟掛け、親子掛け)以上の交配もよく行われます。ただし、次世代の交配ではなるべく遠い血を掛けるようにします。優れた血統同士の近親交配は優れた血統を伝えることにもつながりますが、何世代にもわたる近親交配は遺伝性疾患が出る可能性が高まります。ちなみにエチオピア、ケニア、ジブチ、ソマリアに生息するハダカデバネズミのように、近親交配を重ねても遺伝性疾患が発現しにくい生物種もいます。なお、ハダカデバネズミは哺乳類では数少ない変温動物で、他のデバネズミ類とともに真社会性を持ち、ネズミの仲間では驚異的な長壽(約30年)である上、高い癌耐性があり、低酸素・無酸素状態に対しても強い耐性を持っています。 人で見た場合、生まれる子供の遺伝的リスクは通常3〜4%なのに対し、従兄妹(従姉弟)婚ではそれに加えて1.7〜2.8%リスクが増えます。これは高齢出産のリスクとほぼ同等ですが、叔父姪(叔母甥)婚、異父(異母)兄妹(姉弟)婚だとリスクの増加分がその倍となり、全体の遺伝的リスクは8%前後となります。近親婚を代々続けていくと、遺伝性疾患が現れる可能性は更に高まります。例えば英国に住むパキスタン人は55%が従兄妹(従姉弟)婚で、またそれを代々続けてきたため、現在一般住民の13倍もの高率で遺伝性疾患が発生しています。 犬の場合も近親交配を代々続けていくと、関節疾患、水頭症、停留睾丸等の遺伝性疾患が現れるようになりますので、ブリーダーは慎重かつ計画的に繁殖を進めていかなければなりません。特に体型等を定めるまでに何回も近親交配を重ねてきた犬種では既に血が濃くなっているため、現時点で近親交配をしなくても遺伝性疾患が出る可能性が高まっています。畜犬団体がそれぞれの犬種のスタンダード(標準)とする体型等の許容範囲を狭めてしまうことも、そのスタンダードから外れた犬を繁殖から除外してしまうことにつながり、また品評会で上位に入賞した犬ばかりを繁殖に使用することになれば、更に頭数が限られて血が濃くなってしまう確率が高まります。近親交配を重ねることにより、劣勢遺伝子として不良遺伝子(遺伝性疾患の原因)が一群に固定されてしまうと、やがては不良遺伝子の発現が目立つようになるでしょう。そうなる前に不良遺伝子を除外することが出来れば望ましいのですが、利益優先のブリーダーの中には「売れれば何でも良い」という考えで乱繁殖する人も多いので、ますます不良遺伝子が固定されてしまいます。 当犬舎においても、優れた血統を伝える目的により近親交配を行うことはありますが、その場合は獣医師の診断を受けて仔犬に遺伝性疾患がないことを確認し、里親様にもそのことを十分説明させていただきます。 なお、柴犬等ではGM1ガングリオシドーシスという遺伝性疾患が、ボーダーコリーやチワワではセロイドリポフスチン症という遺伝性疾患がときどき発現し、いずれも短期間で重篤な症状に陥って死に至る恐ろしい病気です。ほかにも様々な遺伝性疾患がありますが、繁殖に用いる犬の遺伝子検査をして繁殖を制限することにより、それらの遺伝性疾患は防ぐことができます。当犬舎の繁殖犬(甲斐犬、柴犬)ではGM1ガングリオシドーシスの遺伝子検査を実施しており、雌雄ともクリア(その原因となる遺伝子を持っていないこと)でなければ繁殖に使用しません。
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